第一部

第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔020

そして今、姉が追い詰めている犯人は、あの時の男以上に歪(いびつ)だ。「愛しているから壊す」。「人間をモノとして愛でる」。 そんな矛盾し、ねじれ切った感情の濁流を、もし至近距離で浴びせられたら? 単純な「悪意」なら、まだ拒絶できるかもしれない...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔019

姉はハンドルを切り、交差点をスムーズに曲がりながら、淡々と言った。「それは……、『トロフィー』と『スーベニア』の混合ね。あるいは、『部分愛(パーシャリズム)』による『物象化(オブジェクティフィケーション)』の極致」 出た。姉の悪い癖だ。  ...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔018

張り詰めていた空気が、わずかに緩んだ。  姉は、宗像警部の葛藤など意に介さない様子で、再び遺体に視線を戻していた。「……始めるわよ、彩心。犯人は、7人を殺してもまだ満足していない。次の雨が降る前に、必ず見つけ出す」 その横顔には、天才として...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔017

まるで犯人の思考回路を透視しているかのようなその言葉が、宗像警部の逆鱗に触れた。「貴様……!」 宗像警部が、姉に掴みかからんばかりの勢いで踏み出した。「まるで見てきたかのように語りやがって! お前がもっと早く動いていれば、この被害者は助かっ...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔016

一つは、腕の先。  泥だらけの腕が、不自然に途切れている。  両の手首から先が、ない。  ギザギザに千切れたのではない。鋭利な刃物で、骨の継ぎ目からスパッと切り落とされた断面が、白く、赤く、乾いた状態でそこに在った。 そして、もう一つは――...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔015

「待ってください」 凛とした声が、その動作を鋭く制止した。  水谷川芽瑠警視だ。  彼女の視線の先、検視官が慌ただしくタブレット端末を手に駆け寄ってきていた。「管理官! 本多警部補! ……照合結果が出ました!」 本多刑事の手が止まる。  水...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔014

そして、約束の日から2日後。  外は相変わらずの雨模様だった。 私たちが『霧笛のティーハウス』のカウンターで、重苦しい沈黙に包まれながら紅茶を飲んでいた、その時だった。 ジリリリリリ……!! 店内の静寂を切り裂くように、カウンターの固定電話...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔013

校庭の隅で、難解な本を読む姉と、その横でニコニコと花冠を作っている煌良ちゃん。  男子に「変な奴と遊ぶなよ!」とからかわれても、煌良ちゃんは怒りもせず、ただ不思議そうに首を傾げていた。『どうして? 佳穂ちゃんは物知りで、すごいんだよ? 変な...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔012

第二章 空白の三日間と雨の旋律空白の三日間3日後の午後2時。  店内に置かれたアンティーク時計の針が約束の時間を刻んでも、ドアベルの『ボーッ……』という音が響くことはなかった。 窓の外では、朝から降り続く冷たい雨が、アスファルトを黒く染めて...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔011

けれど、その沈黙は決して拒絶ではない。  普段は無口で、他者に興味を示さない姉が、煌良ちゃんの前だと不思議と口数が増え、会話が弾む。いつもの絶対零度の空気が鳴りを潜め、姉からふわりとした温かい風が吹いてくるのを感じるのだ。 煌良ちゃん自身は...