第一編

第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔015

「待ってください」 凛とした声が、その動作を鋭く制止した。  水谷川芽瑠警視だ。  彼女の視線の先、検視官が慌ただしくタブレット端末を手に駆け寄ってきていた。「管理官! 本多警部補! ……照合結果が出ました!」 本多刑事の手が止まる。  水...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔014

そして、約束の日から2日後。  外は相変わらずの雨模様だった。 私たちが『霧笛のティーハウス』のカウンターで、重苦しい沈黙に包まれながら紅茶を飲んでいた、その時だった。 ジリリリリリ……!! 店内の静寂を切り裂くように、カウンターの固定電話...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔013

校庭の隅で、難解な本を読む姉と、その横でニコニコと花冠を作っている煌良ちゃん。  男子に「変な奴と遊ぶなよ!」とからかわれても、煌良ちゃんは怒りもせず、ただ不思議そうに首を傾げていた。『どうして? 佳穂ちゃんは物知りで、すごいんだよ? 変な...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔012

第二章 空白の三日間と雨の旋律空白の三日間3日後の午後2時。  店内に置かれたアンティーク時計の針が約束の時間を刻んでも、ドアベルの『ボーッ……』という音が響くことはなかった。 窓の外では、朝から降り続く冷たい雨が、アスファルトを黒く染めて...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔011

けれど、その沈黙は決して拒絶ではない。  普段は無口で、他者に興味を示さない姉が、煌良ちゃんの前だと不思議と口数が増え、会話が弾む。いつもの絶対零度の空気が鳴りを潜め、姉からふわりとした温かい風が吹いてくるのを感じるのだ。 煌良ちゃん自身は...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔010

私と佳穂は、並んで大理石のカウンターに腰を下ろした。  磨き上げられた天板に、アンティークランプの柔らかな光が反射している。 「佳穂、何にする?」 煌良ちゃんがエプロンの紐をキュッと結び直しながら、弾むような声で尋ねる。  姉は迷う素振りも...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔008

ふと、くだらないことを思う。 この会話、ハンドルの向こうにいるタクシーの運転手には、どう聞こえているだろう。「帰宅した後、晩ごはんをどうするか決めていない」程度の話に聞こえているに違いない。 まさか、黒いケープを纏ったこの美しい女性が犯罪科...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔006

この遺産相続にあたり、姉が弁護士に相談しつつ、法的手続きを全て進めてくれた。私は法学部に行っているのに、何の役にも立てなかった。大学に入学したてで、法律の勉強は始まったばかりだったとはいえ、姉に守られるだけの自分が不甲斐なくて仕方なかった。...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔005

空港へ向かう電車のリズムに揺られながら、私はふと、窓の外を流れる灰色の景色に過去を重ねた。 悲しいことに、私たち二人の両親はもういない。 2032年5月。突然の事故だった。もうすぐ、あれから3年が経とうとしている。 「時が解決してくれる」な...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔004

あれから6年。 世界最高峰の研究機関で、犯罪者の心理と行動、そして科学捜査の全てを吸収し、博士号という最強の武器を手に入れた姉が、帰ってくる。 (お姉ちゃん。……見つけたのかな。悪意を止めるための計算式を) 「発生する前に潰す」という姉の挑...