2026-01

第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔016

一つは、腕の先。  泥だらけの腕が、不自然に途切れている。  両の手首から先が、ない。  ギザギザに千切れたのではない。鋭利な刃物で、骨の継ぎ目からスパッと切り落とされた断面が、白く、赤く、乾いた状態でそこに在った。 そして、もう一つは――...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔015

「待ってください」 凛とした声が、その動作を鋭く制止した。  水谷川芽瑠警視だ。  彼女の視線の先、検視官が慌ただしくタブレット端末を手に駆け寄ってきていた。「管理官! 本多警部補! ……照合結果が出ました!」 本多刑事の手が止まる。  水...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔014

そして、約束の日から2日後。  外は相変わらずの雨模様だった。 私たちが『霧笛のティーハウス』のカウンターで、重苦しい沈黙に包まれながら紅茶を飲んでいた、その時だった。 ジリリリリリ……!! 店内の静寂を切り裂くように、カウンターの固定電話...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔013

校庭の隅で、難解な本を読む姉と、その横でニコニコと花冠を作っている煌良ちゃん。  男子に「変な奴と遊ぶなよ!」とからかわれても、煌良ちゃんは怒りもせず、ただ不思議そうに首を傾げていた。『どうして? 佳穂ちゃんは物知りで、すごいんだよ? 変な...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔012

第二章 空白の三日間と雨の旋律空白の三日間3日後の午後2時。  店内に置かれたアンティーク時計の針が約束の時間を刻んでも、ドアベルの『ボーッ……』という音が響くことはなかった。 窓の外では、朝から降り続く冷たい雨が、アスファルトを黒く染めて...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔011

けれど、その沈黙は決して拒絶ではない。  普段は無口で、他者に興味を示さない姉が、煌良ちゃんの前だと不思議と口数が増え、会話が弾む。いつもの絶対零度の空気が鳴りを潜め、姉からふわりとした温かい風が吹いてくるのを感じるのだ。 煌良ちゃん自身は...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔010

私と佳穂は、並んで大理石のカウンターに腰を下ろした。  磨き上げられた天板に、アンティークランプの柔らかな光が反射している。 「佳穂、何にする?」 煌良ちゃんがエプロンの紐をキュッと結び直しながら、弾むような声で尋ねる。  姉は迷う素振りも...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔009

私たちは、道路を渡ってすぐの場所にある煌良ちゃんの城――紅茶専門店『Royal Leaf』、通称「霧笛(むてき)のティーハウス」へと歩き出した。 重厚な木の扉を開けると、『ボーッ……』という、船の霧笛を思わせる低く太いベルの音が店内に響き渡...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔008

ふと、くだらないことを思う。 この会話、ハンドルの向こうにいるタクシーの運転手には、どう聞こえているだろう。「帰宅した後、晩ごはんをどうするか決めていない」程度の話に聞こえているに違いない。 まさか、黒いケープを纏ったこの美しい女性が犯罪科...
第1編

『姉妹探偵』第1編 冷徹な天使と、慈悲深き悪魔007

3年ぶりの再会。積もる話は山ほどある。まずは労わなきゃ。 「お帰りなさい! お疲れ様、長旅で疲れたでしょ。お腹空いてない? 何か食べて帰る?」 私が矢継ぎ早に質問すると、姉はほんの一瞬だけ思考する素振りを見せ、即答した。 「そうね。タクシー...